稲垣足穂『少年愛の美学』
これはいいときにいいものを読んだ。というのは──
男性も更年期を迎えるころにはあっちのほうがさっぱりご無沙汰になる。それはそれでいいのだが、これまでP(すなわち penis)を中心にして築き上げてきた自我が、Pの衰勢とともに崩壊の危機にさらされるのである。これはじっさいクリティカルな状況だ。下手をすると鬱になりかねない。強精剤を飲んで乗り切る(?)のもひとつの手だが、もうひとつの冴えたやり方がある。それは自我の中心をPからA(すなわち anus)に切り替えるのだ。
じつをいうと、切り替えるというのは正しくない。なぜなら、A感覚こそが人間を生まれてから死ぬまで導いている原感覚であって、P感覚なんていうものはAのあとにできた、いわばA'のごときものにすぎないのだから。
P感覚をカッコに入れて、幼少時から培ってきたA感覚を再興させること、すなわちA感覚的還元こそが更年期をぶじ切り抜けるための要諦でなければならない。
まあ、ほかの人はどうか知らないが、私はそういうふうに本書を読んだ。そしてそんなふうに読むと、本書はじつにおもしろい。
あくまでもA感覚にこだわる著者にとっては、紅顔の美少年は「肛顔の美少年」でなければならない。いいかえればA顔の美少年だ。著者にとって、P顔の美少年などというものは存在しない。いかなる美少年もP臭くなってしまってはおしまいだ、というのが著者の意見。
私もPに見放された今だからこそ、肛顔の美老年を目指したいと思う。