そぞろごと

退嬰老人日記

蒐集趣味の終焉

だいぶ前にエリスライトという鉱物について書いたが、その後もいっこうに気に入る標本に巡り合えず、今後一生かかっても入手はむつかしくなってきた。

こういう先の見えない、ぐずぐずした流れに終止符を打つべく、中途半端なしろものではあるが、ともかくエリスライトの標本といえるものを買ってみた(モロッコ産)。

蒐集熱の高まっていたころは、梱包を解くのにも胸が高鳴ったが、今回はそういうのはいっさい感じなかった。現物を見ても、ふーんこんなものか、という、いたって冷めた反応しか示さなかった。

これをもってしても、私の蒐集熱がほぼ完全に冷めつくしたことがわかる。もうこの上、新たな鉱物を買うことはないだろう。今回のエリスライトで打ち止めにしておくのが、美しい幕切れというものだ。


erythrite


     * * *


化石とともに始まった私の蒐集熱は、足かけ五年ほど続いたあと、ある出来事をきっかけに急速に冷えこんでしまった。その後は、ふたたび白熱することもなく、ぶすぶす燻ったまま今日を迎えた。

しかし、蒐集という趣味をいっときでも持てたのはよかった。やはり男子と生れた以上、蒐集に無縁のまま一生を了えるのはつまらない。というのも、前にも書いたように、およそ男子に特有の行動は「殺す、集める、耕す」に極まると思われるからだ。

「集める」のもっとも原始的な形態は、女をたくさん集めてハーレムをつくることだろう。つまり、蒐集欲を駆り立てる原動力になるのはリビドーの働きなのだ。その後、蒐集の対象が多様化するにつれて、原的リビドーも形を変えていくが、根底にあるのは同じ。蒐集趣味全般にまつわる胡散臭さの原因は、この根本的出自のいかがわしさに発している。

自分のことをいえば、もう化石や鉱物はおろか、ありとあらゆる蒐集がわずらわしい。原的リビドーが枯渇してしまったのだ。こうして自分はつまらない人間になっていくんだな、と思う。つまらない、だれからも必要とされない存在に。