そぞろごと

退嬰老人日記

羽仁進『初恋:地獄篇』

この映画では、寺山修司は名前を貸しただけで、製作にはいっさい関っていないと羽仁進が言ったそうだが、それはたぶん嘘だと思う。というのも、ここには寺山的なものが少なからず散見するからだ。ただしそれはほんの味付け程度にとどまっている。そして、それはこの映画にとっては幸いなことだった。

前に見たときは、テレビの深夜枠で、途中からなんとなく見ていただけだから、話の筋などはよくわからなかった。今回改めて見て、なるほどそういう話だったのか、とようやく納得がいった。ひとことでいえば、獲得された正常性が、生得的な倒錯の側から復讐される話。

一種の精神分析映画とみることもできるが、とくに理屈っぽいわけでもなく、謎解きの要素があるわけでもない。この映画の一種異様なムードを醸成しているのは、随所に盛り込まれた性的な暗示のあれやこれやだ。そういったものに感受性のある人間にはおもしろく見られるし、そうでない人間には退屈な作品でしかないだろう。

私はといえば、かつてはそういう感受性をもっていた。だから、テレビで断片的に見ただけで、この映画の本質的なところをつかむことができた。ところが、歳月とともにリビドーが痩せ枯れてしまった現在の私には、もうかつての隠花植物のような、じくじくと湧き出すような心の疼きを感じ取る能力が失われてしまっている。

というわけで、私にはもう今生では経験できない、青春のみずみずしさのみがまばゆく映った作品だったが、それはそれでよかったと思っている。



初恋・地獄篇 [DVD]

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  • 発売日: 2019/02/13
  • メディア: DVD