狂詩について
東洋文庫(平凡社)の「江戸狂詩の世界」という本をぱらぱらめくっているが、どうも興が乗らない。中途半端にひねったものばかりで、がつんとくるものがないのだ。「江戸のエスプリがわからぬか」と通人にいわれそうだが、エスプリなんぞはどうでもいい。私が狂詩に求めるのは、もっと下世話な、もっとばかばかしい、もっと狂的な世界である。
たとえばこんなもの。
虎龍一翻知唐将
親々若子南山寿
不避山砂至臨泉
矢張奔馬酔淮南
これを「虎と龍と、一たび翻って唐将を知れば……」などと読んでも意味は通じない。下に読み方を書いておくが、これを見てもなんのことやら分らない人もいるだろう。
こたついちばんしりからしよう
おやおやわかいしゅなにさんす
ふざけさんすなしりんせん
やはりほんまがえいわいな
(註)
「しりんせん」というのは昔のおいらんの言葉で「知らないわ」という意味。「ほんま」というのは「本間取り」の略で、人間にとっていちばん自然な体位をさす。