そぞろごと

退嬰老人日記

新紙幣の顔

渋沢栄一がどういう人か、何をした人か、私はよく知らないが、厨川白村が1922年(ほぼ100年前!)に書いた「悪魔の宗教」という論稿*1に、

多年うまい金儲けをして身は大資本家となつて貴族に列せられる頃には、引退して何食わぬ顔で今さら論語なぞを説いて廻はつた男があつた。


とあるのが記憶に残っている。はっきりとは名指されていないが、これは渋沢栄一のことですよね?

白村は、100年後に紙幣の顔にまでなる人物の評価を誤ったのだろうか。そうともいえるが、必ずしもそうとばかりはいえない。人物の評価なんていうものは時代と場所によってころころ変るのが常だから。

いずれにせよ、若いころに読んだものは薫習のように心のひだにわだかまる。私にとって、渋沢はうさんくさい人物というレッテルが貼られてしまった。ビスクドールを抱いている写真も見たが、もう手遅れだ。おそらく新紙幣に慣れ切るまでは、彼の顔を見るたびに、上に引いた一文を思い出すんだろう。

*1:『十字街頭を往く』(1923年)所収